司馬遼太郎『真説宮本武蔵』のおもしろさ

『真説宮本武蔵』は、司馬遼太郎さんの短編小説です。

ぼくにとっては、宮本武蔵の意外な一面をみた印象深い作品でした。

読んだ感想です。

新装版 真説宮本武蔵 (講談社文庫)
新装版 真説宮本武蔵 (講談社文庫)

これは、宮本武蔵の就職活動のはなしです。武蔵というと、世間的な出世に興味をもたず、ひたすら剣の道を追求したストイックな人、というイメージをもたれている方も多いと思います。

この小説では、剣の腕前を売りにしてなんとか仕官しようとする武蔵の就職活動の奮闘がえがかれています。剣だけでは高い給料で召し抱えてもらえないとなると、武蔵は軍学に興味をもちはじめます。

軍学とは、たくさんの兵士を指揮して戦うことをあつかった学問です。武蔵は一介の剣術の先生として召し抱えられることは望んでいませんでした。それだと給料が安いんです。だから軍学によってもっと高禄で召し抱えてもらおうと奮闘します。

が。プライドの高い武蔵の就職活動は、うまくいきません。

引用します↓

武蔵は強くなりすぎた。名声を得、尊大にもなった。自尊心で肥大したその巨体は、世間の組織にはまりにくくなってきたのである。

剣の道をきわめたあとの、就職活動時代の武蔵が読めるのは、ぼくにとって新鮮でした。

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無名時代のあせり

有名になる前の、無名時代の武蔵も書かれています。

武蔵は城下にちかい林を稽古場にえらびました。そこで夜な夜な、奇抜なかっこうをして林の木々をぬいつつ、「怪鳥のような跳びかた」をして目立とうとします。

なんとか目立って有名になりたい、という無名時代の武蔵のあせりです。

自分より強い者とは戦わない

目立とうとする武蔵のようすを不快に思い、試合を申し込んできた者がいました。藩の指南役をつとめる腕前の男です。

武蔵は試合を受けるとも受けないとも言わず、数日のあいだその男のようすを観察していましたが…

やがて人知れず城下を立ち退いていきました。

どんな理由があったのか、ぼくらは想像するしかありません。おそらく、その男が自分よりも強いと判断して、試合を避けたんじゃないかと思います。

相手の実力を「見切る」

武蔵は、相手が自分よりも強いか弱いか見切るのが上手だったといいます。

引用します↓

(武蔵は)仕合の相手をえらぶときに、かならずおのれよりも弱いと見切ってからでなければ、立ち合わなかった。

武蔵の才能の中で、もっとも卓越したものは、その「見切り」という計算力であった。

おもしろい話ですね。自分よりも弱い相手としか戦わなかったという武蔵の描かれ方は、ぼくにとっては新しい武蔵像でした。

と、こんなふうに…

この作品では、一味ちがった武蔵が楽しめます。

新装版 真説宮本武蔵 (講談社文庫)には、表題作「真説宮本武蔵」のほかにも、「京の剣客」、「千葉周作」、「上総の剣客」、「越後の刀」、「奇妙な剣客」など、剣豪が主人公の作品がおさめられています。

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